「Never give up!」ゴルフスタジアム問題とALS、2つの困難に立ち向かうレッスンプロ

債権者集会に参加した阿部(前列左から2人目)
債権者集会に参加した阿部(前列左から2人目) 【拡大】
「Never give up!」を信条に、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病と、先ごろ元社長が提訴されたゴルフスタジアム(GS)問題という2つの大きな戦いに立ち向かっている男がいる。阿部進。その闘志が尽きることはない。
(ゴルフジャーナリスト・小川淳子 写真・清流舎)

1年間、病名が分からなかった

2018年12月、伊澤利光、松村道央、山下和宏らツアープロも集結したチャリティイベントが行われた。丸山茂樹、佐藤信人らは、出席はできなかったが、商品提供などで協力。集まった116万円がALS協会に寄付された。その中心にいたのが阿部だった。

中学時代にゴルフに夢中になり、埼玉栄高校から日本体育大学と、強豪ゴルフ部に所属。ツアープロを目指し、2003年には日本オープンにも出場したが、この年いっぱいで断念。レッスンの道に切り替えた。最初は一人で始めたレッスンは好評で、2004年には会社を設立。多い時には9人のスタッフを抱える大所帯で、栃木、埼玉を拠点に年間1000人以上を教えるラウンドレッスンを中心に活動していた。

ツアープロを目指している間に抱えた借金も返し終わり、プラスに転じて順風満帆。そんな矢先に、2つのダメージが阿部を襲った。「1年365日のうち360日は仕事」という生活が苦にならなかったはずなのに、体がだるくて動けない。そう感じ始めたのが2016年のこと。様々な病院を受診したが、原因がなかなかわからない。結局、1年ほど後にALSと診断された。

関係の深さから断れなかった2度目のローン

自宅でインタビューに応える阿部
自宅でインタビューに応える阿部 【拡大】
病名が分かったちょうどそのころに発覚したのがゴルフスタジアム(GS)事件だ。総額約40億円、1000人超の被害を出した大事件。「ホームページを無料で作る。その代わり、広告料で相殺するからスイング解析ソフトのローンを組んでくれ」と言葉巧みに取り入り、ローンを組ませ、途中から広告料がストップ。最後はローンだけが残るという悪質な手口の被害者の一人に、阿部はなっていた。

GSとは10年以上の付き合いがあった。拠点とする練習場で、スイング解析ソフトを契約。まだスマートフォンアプリなどが今ほど浸透していない頃のこと。顧客に登録してもらえば、打ってすぐスイングが見られるシステムに魅力を感じて1台250万円のスイング分析機を2台購入。ホームページ製作費200万円で合計700万円のうち、300万円のローンを組んだ。これを数年で完済。この後、事件に巻き込まれる。

旧知の営業マンから、新しいローンを依頼されたのだ。すでに商売は軌道に乗っており、その必要もなく「800万円」という額に不安も抱いた阿部。だが、付き合いの深さもあって結局ローンを組み、結果的に被害者となり「僕が甘かった」と、悔しがる。

「広告料」の名目でローンと同額が振り込まれていたのがストップし始め、事件が発覚したのが2017年の春。「それまでまったく気付かなかった」という阿部が、何十軒もの医者を訪ね、ついにALSと分かったのもこの頃のことだ。仕事ができなくなり、会社はスタッフに譲った。GS社は破綻したが、リース・クレジット会社との契約は残っている。仕事ができないのに負債を800万円抱えることになってしまっているのが現状だ。

GSの破たんに伴い、債権者集会が開かれたが、阿部はなかなか参加できずにいた。3月に行われた最後の債権者集会には車いすで駆け付けたが、被害者への配当はゼロという結果に終わった。それでも、阿部も加わっているGS被害者の会は、リース・クレジット会社相手の訴訟を続け、その理不尽さを訴えている。阿部自身も決してあきらめてはいない。

GS問題も病気も決してあきらめない

壁には「Never give up」の文字が
壁には「Never give up」の文字が 【拡大】
筋肉を動かす神経に支障が出て、筋肉を動かす指令が出せなくなるALS。進行とともに動く筋肉が減っていく難病として指定されている。現在のところ決定的な治療法は見つかっていない。だが、阿部はあらゆる手段でこれに立ち向かおうとしている。GS問題についてもあきらめてはいない。

「世界で治った人が1人もいない病気ですけど、全然あきらめていません」。力強くそう口にする目の前には「Never give up」の張り紙がある。治験を受けたり、東洋医学を試したり、あらゆる手を尽くして病との戦いに挑んでいるのだ。自分のことだけではない。「日本に1万人もいない病気だから、もっと知ってもらって理解してもらいたいんです」と、ALSの認知度アップに全力を尽くしている。

前出のチャリティイベントだけでなく、情報をくれたり、役に立ちそうな人を紹介するなどの方法で協力してくれているのが、大学ゴルフ部の2年先輩である伊澤や、同世代の丸山ら、プロ仲間だ。多いときで月に3回の講演という形でも、ALSの認知度アップに努めている。

難病と悪質リース事件の被害という2つの大きな敵に、静かに、だが決然と立ち向かう阿部。その姿は、同じ病気と戦う者にも、被害者の会の仲間たちにも、大きな勇気を与えているに違いない。

(文中敬称略)

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