「オーガスタでこんな日が迎えられるなんて」ナンシー・ロペス、感激の涙の理由

女性差別と人種差別。二つの大きな差別と静かに闘ってきたロペスだからこそ、オーガスタでの一打は感慨深いものだった 写真・村上航
女性差別と人種差別。二つの大きな差別と静かに闘ってきたロペスだからこそ、オーガスタでの一打は感慨深いものだった 写真・村上航 【拡大】
 タイガー・ウッズの劇的な優勝に沸いたマスターズの前週、オーガスタナショナルGCでは、初めての女子の大会、オーガスタナショナル女子アマチュアが開催された。

 名誉スターターとして、ナンシー・ロペス、アニカ・ソレンスタム、ロレーナ・オチョア、パク・セリの4人のレジェンドが登場したのだが、中でも唯一の米国人、ロペスの感慨はひときわ深かったに違いない。

 長らく女性に門戸を開かず閉鎖的だったオーガスタナショナルGCだが、同クラブが閉鎖的だったのは女性に対してだけではない。1933年の開場以来、長く“白人オンリー”のクラブとして知られてきたが、それはジョージア州という地域の特性もあった。

“ディープサウス”とも呼ばれる米国南部のジョージア、アラバマ、ミシシッピ、ルイジアナなどは、保守的な白人による人種差別が根強く残っていた。64年に公民権法が成立した後も、会員制の場所は人種を限定しても法的にはなんら問題なかった。そして、ほとんどの名門クラブは会員制だ。ところが、「差別のある場所でツアー競技を行わない」という規定ができたこともあり、批判にさらされたオーガスタナショナルGCはようやく規則を変えるに至った。同クラブにアフリカンアメリカン、つまり黒人の会員が誕生したのは90年のこと、わずか30年前だ。そして、キャディを含めてクラブハウスで働く人々の多くが、黒人だった。

 現在62歳のロペスはカリフォルニア州ロサンゼルス郊外で生まれ、育ったのはニューメキシコ州。両親はメキシコからの移民だったから、アメリカではいわゆるマイノリティで、決して裕福な家庭ではなかった。元大リーガーのレイ・ナイトさんと結婚すると、2009年に離婚するまで結婚生活の多くを、夫の地元のジョージア州アルバニーで3人の娘とともに暮らした。そこはオーガスタナショナルGCから車で3時間、かつては日常的に深い人種差別が存在し、その名残は大きかった。

「子供のころ、ゴルフトーナメントに出られないことがあった。それは、わが家にお金がないからだと思っていたが、後に自分がカラード(有色人種)だったからだと分かった。そして今なお、このアメリカにはたくさんの差別が残されている」

 02年、45歳でツアーから引退したロペスは、現在もジョージア州で地元のホスピスを支援する大会を開催するなどの活動を行っている。

「オーガスタナショナルでこんな日が迎えられるとは思わなかった」

 名誉スターターを前に、涙を流しながら喜んだロペスの言葉は、静かに人種、性別の壁と闘ってきた彼女ならではの重みがある。

文・武川玲子
※週刊パーゴルフ(2019年5月7・14日合併号)掲載


武川玲子(たけかわ・れいこ)
大阪府出身。米国・ロサンゼルスを拠点に、米PGA、LPGAツアーを精力的に取材している。2011年にはその綿密な取材活動をたたえられ、LPGAグローバルメディア賞を受賞している。

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