短期集中連載「素顔の宮里藍」10

5月26日、今シーズン限りでの引退を発表した宮里藍。その後、米女子ツアーに復帰し、いつものように「全力で」残り試合に臨んでいる。過去にパーゴルフPLUSで“今週の藍ちゃん”というコーナーを持ち、宮里藍と懇意にしているジャーナリストの武川玲子が、フィナーレまでの期間、“藍ちゃん”の知られざる素顔を公開していく。

10 敗者の弁

これまでは主にスランプなど、宮里藍の苦しかったときを振り返ってきたが、これからは彼女が飾った素晴らしい勝利の数々、そしてそのときの思いを述懐したい。

2012年の米女子ツアーで9勝を挙げた宮里。シーズンでいうと年間5勝を挙げた2010年が、彼女のキャリアで最高の1年になった。もう少し長いスパンでいえば、2009年7月にエビアン・マスターズでツアー初優勝を飾ってから、2012年6月にアーカーソン選手権で9勝目を挙げた3年間が彼女の黄金期だ。

とりわけ初優勝を飾った2009年は見事だった。エビアン以降の残りのシーズンは、出れば優勝争いという快進撃。翌週の全英リコー女子オープンで3位、米国に戻ってセーフウェイ・クラシック(オレゴン州)4位、カナダ女子オープン2位、アーカンソー選手権10位、サムスン世界選手権2位という具合に、ほとんどトップテンを外すことがなかった。

その2009年で忘れがたいシーンがある。

ランキング上位の20名だけが出場できるサムスン世界選手権は、カリフォルニア州サンディエゴのトーリーパインズGCサウスコースで開催された。例年、男子のファーマーズ・インシュランス・オープンが行われ、2008年の全米オープンではタイガー・ウッズ(米国)が最後のメジャー勝利(今のところ)を挙げた名門だ。

ここまで6試合連続でトップテン入りをしていた宮里は、相変わらず絶好調だった。

首位を行くチェ・ナヨン(韓国)と3打差の3位で迎えた最終日、18番パー5をチェと通算15アンダーで並んで迎えた。

宮里の第2打はピンまで203ヤード。グリーン左前には池が待ち構えているが、ここで迷うことなく5番ウッドを手にして2オンを狙った。一度は池を越えたが跳ね返って水に沈み結果はボギーとし、18番でバーディーを奪ったチェがツアー初優勝。結果だけ見れば残念だったものの、忘れられないのは敗者の堂々たる言葉だった。

「すごく良いプレーだった。18番は自分の状況を分かっていてチャレンジした。緊張はしていたけれど、十分に自分をコントロールできた。自分のやるべきことをやって負けた。ナヨンがそれ以上に良いプレーをしたということ」

あまりにもすがすがしい顔だっただけに、アメリカ人記者からは「悔しくないのですか?」と聞かれたほどだった。

「最後のホールで確かにショットをミスしたが、自分のミスで負けたのだからそこから学べるし、次のトーナメントに生かせる。レイアップしなかったことは間違っていない」

堂々と、しかも英語できっぱりと言い切った姿は、今も鮮明に覚えている記者が多い。

本当は悔しかっただろう。しかし、ミスショットや選択ミスと悔やむことは違うのだ、と宮里は教えてくれた。自分が納得して臨んだのだから、悔やむ必要はない。それよりも気持ちの整理をしっかりとつけて次に進んでいく。彼女の強さだった。

エビアン・マスターズで悲願の米ツアー初優勝を遂げたあと、「今、気持ちの緩みが一番怖いんです」と話した宮里。初優勝は大きなニュースとなって日本中を駆け巡ったから、彼女の周囲も俄然、騒がしくなった。

「エビアンについて話す機会がいっぱいあって、でもそれで自分が“勘違い”しそうになってはいけない。今、勘違いしてしまうと今年はダメになってしまう。一つの目標を達成したけれど、勝ち続けることは本当に難しい。試合は待ってくれないから、もう次に進まないと。今のものを続けていれば絶対に勝つチャンスはまた巡ってくる」

それは現実となり、サムスン世界選手権で新たな経験もつんだ宮里は、翌年、開幕戦から2連勝とさらにギアを上げていった。

文/武川玲子
自分が納得したことで結果的に失敗しても前を向く。宮里藍のメンタルは日を増すごとに磨かれていった
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