ガラス細工のような繊細さと、豪快な大胆さを合わせ持っていないと、ゴルフの戦いには勝つことができない……と昔からいわれている。その相反する感性のバランスがかみ合えば、優勝争いに生き残れる。
2位と5打差でスタートした渡辺司は、スタートする直前、クラブハウスを出るときに「5打差は、ほんとにきついんだよねぇ。先週(日本女子オープン)の(宮里)美香ちゃんを、つい思い浮かべてしまうんだよ」と独り言のようにつぶやいた。でも、美香ちゃんは、最終ホールで見事なバーディパットを決めたじゃないですか、というと「そうだよねぇ。神様に祈るしかないよね」と弱気な発言をしていた。
「(追って)来るとしたら室田さんかなと思っていました」と予想どおりの展開になったのは、後半の残り5ホールだった。
「迷うんですよ。攻めたいけど、絶対に(スコアを)落としたくないって。その中途半端な感情がゴルフを難しくしたんでしょうね」
後半、15番(パー4)、16番(パー3)で連続ボギー。あっというまにスコアが室田と並んだ。渡辺は、大胆さがうせて消極的になり、繊細な気持ちで守りに入っていたのだろう。
ホールアウトしてスコアカードを提出し、プレーオフ1ホール目の18番ティグランドにいくわずかな間に、渡辺は迷いの気持ちを捨て去った。
「人間不思議ですよねぇ。吹っ切れたときには、(ショットもパッティングも)いい結果になるんですよね」
7メートルのバーディパットを入れる前に「入れてやる。これを入れなければ、いままで積み重ねた努力もなくなる」と信念を持ったという。豪快な決断ができたのだ。
文・三田村昌鳳