18番のティショットを打つ前、大きく肩を上げて息を吸い込み、ストンと肩を落として吐き出す姿が印象的だった。状況は分かっている。
6組前でプレーした金亨成が、フロント9を4連続バーディなどで29。最終的に65で回り、4日間トータル5アンダーで上がっていた。18番のティグラウンドに松山英樹が立ったときのスコアは5アンダー。前半の4連続ボギーなどで前日から3つスコアを落としていたが、バック9は何とかこらえた。18番(425ヤード、パー4)でパーならプレーオフ、バーディなら優勝だ。
片手を放したティショットは左ラフ。ピンを狙うのはバンカー越えになる。
「硬いため止まらないグリーンなので、バンカーギリギリに打つしかありませんでした。もちろん、花道を狙う選択もありました。でも、アプローチ、パットとも調子がいい状態ではなかったので、ピンを狙ったのです。もしバンカーに入っても、パーを取る自信はあったのですが……」
振り抜いた左ラフからのセカンドショットは、ほんの10数センチ届かずバンカーに転がり落ちた。ただ、ピンまで8ヤードのバンカーショットを、2メートルに寄せる度胸と技術を松山は持っている。入れればプレーオフのパーパットは、右に抜けた。4アンダーは金亨成に1打届かず、2位タイで終えた。
「今日は1日ラインを読むのを迷ったぶん、最後も切れるのか切れないのかすごく迷いました。キャディさんと話をして『真っすぐいこう』ということにしたのですが、自分の中ですごく不安があり、ちょっと右を向いたら右に抜けてしまいました」
2位に4打差の単独トップで迎えた最終日。フロント9で5ボギーを打った元凶はパットだった。1番で50センチのパーパットを外したのが、すべての始まりだった。
「3日目にパットがすごくよく入りましたが、その流れで1番のパーパットを簡単に打ちすぎました。外したことで違和感が生まれ、不安を覚えてしまいました」
4番でボギーにしたのはショットだ。フェアウエーからピンを狙ったセカンドショットがグリーン奥にこぼれた。アプローチで寄せることもできず、ピン下3メートルのパーパットを外した。ここから4連続ボギー。
「パットに不安がありますから、ショットでピンにつけないといけないという意識になっていました。そのショットも曲がり始めて、ボギーが止まらなくなりました」
絶好の位置でスタートしながら今季2勝目、メジャー初優勝を取り逃がした。
「悔しいです。多くのギャラリーの応援を受けていたので、勝つところを見せたかったです。メジャーのセッティングではドライバー以外でティショットを打つこと、パットが悪いときにアプローチで寄せる技術をもっていないといけないことを学びました。最終日は自分のミス。自分がしっかりやっていれば、こういう結果にはなりませんでした」
ホールアウト後、テレビインタビューや会見を終えて向かった先は、松山のサインを待つファンの元だった。悔しさを押し殺し、丁寧にサインをする松山は、優勝を見せられなかった申し訳なさと、「ファンに好かれるプロになる」という信念の表れだった。
プロナンバーワンを決める大会で、松山英樹はプロの厳しさと悔しさ、そして楽しさをさらに感じたのではないだろうか。
文・井上兼行、写真・鈴木祥