更地になった市原ゴルフガーデン。被害者の現在の心境

私たちのような被害者を再び出さないために、倒壊の原因を究明して明らかにしてほしい

3450坪の広大な更地となった市原ゴルフガーデン跡地
3450坪の広大な更地となった市原ゴルフガーデン跡地 【拡大】
5月26日発売の週刊パーゴルフ本誌でも詳報しているが、台風15号被害の象徴のような存在であった市原ゴルフガーデン(千葉県)が解体作業を終え更地になった。しかし、鉄柱倒壊の被害者である近隣住民たちが心の平安を取り戻すにはまだまだ問題が山積している。

取材/文・小川朗(日本ゴルフジャーナリスト協会会長) 写真・鈴木健夫、清流舎

5月19日。千葉のゴルフ練習場、市原ゴルフガーデンの鉄柱倒壊事故の被害者である坂本高志さんの背後には3450坪もの、広大な更地が広がっていた。昨年の9月9日、房総半島を襲った台風19号による、同練習場の鉄柱倒壊事故から8カ月あまり。昨年秋から始まった補償交渉は今、どうなっているのか。現在の心境を、坂本さんに聞いた。

瞬間最大風速57.5メートル。暴風が水を含んだネットを引っ張り、30~41メートルの高さがある鉄塔13本を約140メートルに渡り倒壊させた。被害は27世帯に及び、大けがを負った被害者もいる。坂本さんの自宅にも鉄柱が2階の屋根を真っ二つに押しつぶす形で倒れ込んだ。現在、その自宅の解体作業も終了。すべて更地に戻された。それにしても、被害者の人々にとって、この8か月はあまりに長かった。坂本さんが、この間たえず訴え続けてきたことがある。

「こんなことが2度と起きないようにしたいと。私たちのような被害者を再び出さないために、倒壊の原因を究明して明らかにしてほしい」(以下、カッコ内コメントは坂本さん)

あんなことが起こらなければ、普通に生活を続けられていたはず。それを金額に換算することは難しい

解体前、坂本さんの自宅も鉄柱の下にあった
解体前、坂本さんの自宅も鉄柱の下にあった 【拡大】
しかしその訴えは、補償問題を叫ぶ声にかき消された。台風から数日後、被害者側がオーナーの渡邉陽子さんとの会談を要請。練習場のクラブハウス内で話し合った。この時、渡邉さんは補償に前向きだったが、数日後に事態は急転。「新任の弁護士が『自然災害だから(被害者)それぞれの火災保険でお願いしたい』と言い出した」(被害者の一人)

「あの当時は、先が見えない状態ということで、バタバタしたところもあった。私自身も、最初の1週間程度は取材拒否を貫いていました。被害のひどい私の家に出入りしている姿を見れば、取材したい気持ちを持つのも当然でしょうが、すべてお断りしていました」

オーナー側弁護士の「誠意なき対応」がマスコミに流れ、渡邉オーナーに対する批判が集中した。そこに解体業者の㈱フジムラが無償で撤去工事を行うと名乗りを挙げ世間の称賛を浴びるが、住民との最初の話し合いに弁護士とオーナーは同席せず。これが不信感を呼ぶ。一方で、フジムラ側との話し合いもスローダウン。被害者たちは行政側のサポート(4人家族で7万円、5人家族以上で10万円)はあるものの、仮住まいで不自由な生活をせざるを得なくなっていた。

「あんなことが起こらなければ、普通に生活を続けられていたはず。それを金額に換算することは難しいですよね。あの日、私は夜勤のため、車も職場に乗って行っていたし、ガソリンも満タンにしていたから、その点は避難生活を送るうえで助かった。でも車の上に鉄柱が倒れてきた方もいる。まず車を探さなければならない方が、たくさんいたんです。レンタカーだったり、中古車だったり…。ガソリンスタンドも長蛇の列。いろんな意味で、皆さん大変でした」

ネットなどで、この件を裁判に、との意見があるが、裁判にはお金も時間もかかる

夜勤明けで疲れている中、本誌取材に丁寧に答えてくれた坂本さん
夜勤明けで疲れている中、本誌取材に丁寧に答えてくれた坂本さん 【拡大】
その後の話し合いにオーナーと弁護士が同席したことで、ようやく鉄柱の撤去が行われることとなった。11月13日に撤去工事が無事終了。オーナー側は練習場の廃業を決断。更地にして転売し、売却で得た金額の中から、被害者への補償に充当する方針も決定した。何かとトラブルの元凶だった最初の弁護士が解任されたことで、事態は正常な軌道に乗ったと思われた。しかしこの後もトラブルは相次ぐことになる。

引き継いだ新任弁護士が災害ADRによる保証手続きを進めたが、引き続き練習場を更地にする工事を請け負ったフジムラが苦労する。以前に埋設されていた杭を抜く作業が難航し、2カ月も工期が延びてしまった。5月2日、ようやく工事が終了。約3450坪のきれいな更地が引き渡された。

「きれいになりましたね。ただ、ここまでされてしまうと、原因究明も言い出しづらくなる。ネットなどでも、今回のことを裁判にしてほしい、との意見があります。でも裁判にはお金もかかるし、時間もかかる。なかなかそうは行きませんよね……」

だが日本中には住宅街にゴルフ場や練習場が隣接し、ネットや鉄柱がそびえ立っている風景は至るところで見られる。市原以上の暴風が吹き荒れないという保証はどこにもない。ネットの昇降設備がなかったり、鉄柱の補強が必要な場所は早急に安全対策を講じる必要もある。それはJGA(日本ゴルフ協会)、JGRA(全日本ゴルフ練習場連盟)だけでなく、ゴルフ業界が一体となって取り組むべきテーマだろう。

更地にされた練習場跡地は不動産業者などにも魅力的。すでに複数社が手を挙げていたが、ここに来てさらに困った問題が浮上してきた。土地売却の前提として取得しなければならない境界確認の取り付けにあたり、隣地所有者との話し合いが難航。確定測量が出来ないため、土地売買契約の手続きに移行できなくなっているというのだ。

隣地所有者が「筆界特定制度」を選択したことで、少なくとも半年以上はかかる。すでに8カ月も仮住まいを余儀なくされている被害者が元の生活に戻る日が、さらに先送りされるという事だ。

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